Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

コラム 怒る恩師 ☆(`Д´メ)凸

玉川先生は一見温厚そうな顔をしており、世間では”gentleman”であると誤解されているが、実は医局員のことをいつも怒っていた。
玉川先生との読影が始まると「ちゃんとカルテ読んだかぁ!」「患者さんを触診したか?」「単純X線写真を見たのかぁ!」と怒鳴り声が聞こえる。
新人医局員の最初の仕事はCT室当番であった。造影剤の静脈注射もろくにできない新人医局員にとっては、そんな時間の余裕もあるわけがなく、とても理不尽な要求だと私はいつも思っていた。

血管撮像のときも、玉川先生はやはり怒っており「ガイドワイヤーの位置が5mm手前だぁ」「振り返ったときに注射器を取れ!」という調子で、特にミエログラフィを撮像するときには、医局員はあまりに怒られるのでパニックとなり、まともなミエログラフィを撮像できないというのが秋田大学放射線科の実情であった。
私は、自分より出来ない人間がいると逆に安心してしまうたちなので、先生が怒ることを不思議に思い、ある日「なぜ、できない人にそんなに怒っているのですか?」と聞いてみた。先生の返答は「バカを見ると腹が立つ」であった。世の中にそんな人もいるのだと思った記憶がある。

兄弟子の宮内先生は、今でも怒っている。宮内先生が鶴岡荘病院から大学に戻られると、読影室では「病棟に行って単純写真を取って来い、カルテを見て来い」と、さらに要求が高まった。しかしその結果、我々は単純写真を読影し、勉強する機会が増えた。
他にも怒っている人はいた。新藤先生は爆発するように怒っていた。兄弟子の斉藤先生に言わせると、新藤先生は「いつも本気で仕事をしているから、本気で怒るのだ」とのことであった。温厚な渡会教授は”怒りは敵である”と嫌がらせの紙を医局に貼っていたのだが・・・・
ただ、怒れる恩師・兄弟子たちは、後輩と読影することをためらうことは決してなかった。「一緒に読影してくれ」と頼んで断られたことは、夜だろうが土日だろうが一度もなかった。

こんなエピソードがある。あるとき、兄弟子のひとりがリンパ管造影で造影剤を静脈内に注入してしまったことがあった。そのとき、驚いたことにいつも怒っている玉川先生は、黙って主治医と患者さんに謝りに行き、怒ったりはしなかったのだ。
その後も、私も含め弟子たちが”やってしまったとき”には、玉川先生は決して怒ることなく、主治医と患者さんに謝りに行くのであった。という訳で、玉川先生は恩師である。

≪手にとるようにわかる骨関節単純X線写真 ベクトル・コア社より転載≫

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