Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

コラム 読影の手順-放射線科医の目-

時々、他科のお医者さんから、“MRI の読影のコツを教えてください。”と尋ねらることがあります。“読影のコツ”なんてあるのでしょうか?読影力を身に付けるのには、時間がかかります。この“肩関節のMRI ”には、画像読影の全てを伝えたいというひそかな希望もあります。それはともかく、読影の手順とその能力習得の過程を簡単に述べましょう。

  1. 必要最低限度の画像獲得・作成原理を知る。
  2. 正常解剖画像を知る。
  3. 異常所見を見つける。
  4. 異常所見を説明する病態を見つける。
  5. 患者さんへのfeedbackを考える。

1,必要最低限度の画像獲得・作成原理を知る。

必要最低限度の知識は、読影する人によって違います。たとえば、絵だけあれば十分という人もいるでしょう。MRIの原理を全く知らなくても、“大抵は”、“相当の”読影が出来ます。その時、その人が原理を知らないこと気にしなけれ良いのです。

しかし, MRIの場合は、T1, T2 強調画像であるとか数種類の画像が提供される上に、しばしばに原理に関与した、様々なアーティファクトも出現します。そういう訳で原理を知らないと“時々”誤診をします。原理の理解はあるにこしたことはありません。また、原理の理解なしに、撮像の指示は出来ません。

この“肩関節のMRI ”には、肩関節のモノグラフとしては、詳しすぎる原理が述べられていますが、たぶんに撮像を担当する技師の方を意識しているからです。ある程度の原理の理解なしに、MRI装置の維持、最適撮像方法の設定は無理です。各MRI装置につき、少なくとも一人は原理を理解した病院サイドの“人”が必要です。原理を知らない人は、その“人”を信じる他は道がないことになります。

2,正常解剖画像を知る。

幸いにして、人の進化過程は遅く、正常解剖は変化しません。昔、解剖を間違うと、“最近解剖が変わったのか?!”と某玉川先生に馬鹿にされたものです。

画像の原理を知り、人体の正常解剖も知れば、おのずと画像上の正常解剖も理屈の上では判ることになります。しかし実際は、原理は難しいし、二次元平面に投影された画像上の正常解剖を知ることは難しいことです。

それに知るだけでなく、正常画像が目、頭、心に焼き付いている必要があります。人体の解剖は、三次元に存在し、画像は二次元で存在すること、この三次元と二次元を行ったり、来たりすることこそが、読影の本質であり、“コツ”であるとも言えます。

それに、正常解剖には、色んな顔の人がいるように、幅があります。醜男も美女も正常です。これを取得するのには、“知識”と“経験”が必要です。

3,異常所見を見つける。

これは、2が出来ていれば、時間と集中力の問題です。山菜採りや栗拾いのようなものです。これが“放射線科医の目”です。この際、異常所見の時間変化も大切です、前回との比較です。この作業で二次元の画像を、四次元に存在する患者さんに復元することが初めて出来ます。

4,異常所見を説明する病態を見つける。

異常所見を説明する病態については、よい教科書があるので、それを参考にすれば良いでしょう、肩関節のMRI の場合は異常所見に対応する病態は、大抵一つです。想定した病態が、全ての画像と患者さんの病態を良く説明するものである必要があります。

5,患者さんへのfeedbackを考える。

このfeedbackの過程は、おもに主治医が行う過程です。次にどのような検査、治療を, 何時やるべきかを考える過程です。手術のためのMappingも含まれますし、時には、積極的治療を諦めるという選択肢も存在します。

いったん、画像から情報がやってくるという“放射線科医の目”が出来ますと、雪崩のように読影能力が向上します。これが、何時出来るようになるかは、個人差がありますが、放射線科医として、トレーニングを開始して、数ヶ月から、一年の間のようです。この放射線科医の目は、誰でも持てるようですし、この獲得の時期よりは、その後の精進の方が放射線科医の能力を決定しているようです。

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