コラム 生まれたての天使
スイス生まれの画家パウル・クレーの「生まれたての天使」(*)という絵をみて、”天使にも赤ん坊のときがあるのか!?”とびっくりした。
どんな病変にも小さく、おぼつかないときがあるハズである。
しかし、マンモグラム(MMG)上、石灰化はその存在を見落とすことはあっても、指摘されれば誰にでも見えるものである。乳腺の石灰化は、大きくは栄養障害性石灰沈着に分類される。変性、壊死に陥った細胞、組織で、カルシウムの溶解、吸収が居所的に困難となり、カルシウム沈着が結果的に生じるものを栄養障害性石灰沈着という(**)。
これは「新しい天使」とされている作品。 私が見た「生まれたての天使」ではなさそう。 |
こちらは「てさぐりする天使」という作品。 おぼろげな記憶の中ではこちらが近い。 |
乳癌には特徴的・特異的石灰化をしばしば生じる。しかもMMG上、石灰化のコントラストが高く、用意に評価できることは、画像診断する立場から言えば”カモネギ(好都合)”で、ほかの悪性腫瘍では例がない(***)。
診断上問題にされる石灰化は100μm(0.1mm)前後の大きさで、この形態を明瞭に描出する必要がある。
アナログMMGでの石灰化描出能力(≒鮮鋭度、粒状性)は、菅球焦点サイズ、増感紙の蛍光体の大きさなどに依存し、25μmほどの世界である。デジタルMMGでは、画素サイズに影響され、100~25μm以上の世界となる。
CTはスライス厚に限界があり、最小でも500μm(0.5mm)以上の大きさになってしまい評価に値しない。MRIは水素の原子核から信号を得ているので、カルシウムは原則として見えない。一方、顕微鏡では1μm以下の世界である。
(
*)
原題「天使の生成」(1934年)、Engelim Werden
(**)
一方、高カルシウムの血症の結果、正常組織に生じるものを転移性石灰化といい、動脈の中膜や気管壁などから沈着が始まる。
(***)
甲状腺癌にも砂粒状の石灰化が生じるが、乳房のように甲状腺だけを圧迫撮像することができない。
≪マンモグラフィのあすなろ教室 秀潤社より転載≫