Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

コラム 三次元再構築画像は放射線科の“敵”

子供達の塾の送り迎えのために、携帯電話を持たされました。機能が沢山ついているようですが、使い方が難しくて良く判りません。新・新人類の医局員いわく、“先生の世代には無理でしょう。”とのこと。
使う気がしないと言えば、現在、医局にもワークステーションが複数台設置されて“三次元再構築画像”処理が出来るのですがとても手が出ません。過去の学会発表では、“Three dimensional (3D)・・・・”の素晴らしい画像は時々見かけましたが、幸いにして臨床の現場を脅かすことはありませんでした。

そもそも、我々、放射線科医は平面画像に投影された情報を頭の中で、三次元再構築する技術を得意としている所があるわけですから、画像を“サルでも判る”3Dにされたらメシの食い上げになりかねません。しかし、ふりかって考えれば名医が、目、手、耳で診断治療していたものをX線、断層、超音波、CT, MRI、MRA と科学技術の進歩ともに発展させてきたのが画像診断ですから、私が“3D”を“敵”と考えるのは、“天に向かって唾を吐くようなもの”なのでしょうか?

“3D”の基本になるのは、画像を構成するための情報(data)が、対象物のVolume全体から得られている必要があります。従来のCTですと、Volume dataが得られていても、スライス厚が10mmだとすれば、縦軸方向の画素が10mmとなり、再構成するとギザギザの絵になってしまいました。

近年ヘリカルCTが普及し、薄いスライスの画像を連続して撮影出来るようになり、“3D”に耐えうるVolume dataが容易に収集出来るようになりました。それで、高度の画像処理能力を持ったワークステーションが普及するようになりました。

さてMRIの画像情報の収集は、通常、二次元フーリェ変換法というスライス間隙(gap)を必要とする方法でなされてますが、これを三次元フーリェ変換法で施行すれば、スライス間隙のないVolume dataが得られます。しかし、この方法は撮影に時間がかかるので、高速撮影法であるField Echo法(T2*)で撮影されます。このようにして連続する薄いスライスにVolume dataを採取することが出来る訳です。

断層面を再構築するのは、比較的容易ですが、解剖、病理構造を立体的に表示するとなると、構造の境界をどうワークステーションに認識させるかが問題となります。CT上は、骨はhigh density でしたから、ある一定のCT値以上のものを骨と認識させれば比較的容易に、“3D”再構築画像をつくることが出来ました。Flow void になった血管、造影剤で高信号になった血管も同様です。

表示したい構造が、周辺構造物と違う信号情報を持っていれば“3D”再構築は比較的容易です。しかしなかなかそうはいかないので、ここに人為的要素が入り込んできます。病変を大きくしたり、小さくしたりして、画像を再構築して、術前の患者説明に利用する可能性があります。再構築すること自体に人為的診断要素が含まれています。

過去に“3D”再構築が普及しなかった理由の最大のものは、誰が“3D”再構築するかという問題にあったと思われます。膨大なVolume dataから、必要な画像を再構築切り出すためには、高度の技術と知識が必要です。学会で発表するのは、自分のためですが、外科医のために、ワークステーションに時間外へばりつくのは、面倒くさいことです。

現在、“3D”再構築処理は病院収入にはなりません。また将来もならないでしょう。しかし、「より安全に、正確に、迅速に手術をするために“3D”再構築がどうしても必要です。」と手術の下手な外科医に頼まれたら、患者さんのために協力せざるおえないというのが、放射線科の立場でしょうか?携帯電話の機能を厭わず使用する等、“進取の気象に富む”こと自体は医療従事者の義務であることに間違いはありません。

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