Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

依頼元医師の自宅電話番号

土曜日の夕方、担当の問診時間も終わっていたので、日本橋に開店したばかりの"バリ男"(次郎系ラーメン)を食べに行った。
ブレスケアでにんにくの臭いを少しごまかして八重洲クリニックに戻ると、みんなが私の帰りを待っていた。
確かにiPhone、au携帯の両方に不在着信が残っていた。何時もマナーモードにしているが、最近は触覚までも鈍くなってきて、その時も気づかなかった。
MRI検査で脳腫瘍があるとわかった女性患者さんがいるとのことである。確かに前頭葉に広範浮腫を伴う大きな脳腫瘍がある。ただ全身状態は極めて良好の患者さんだった。
土曜日の夜、何と説明すれば救急病院が受け入れてくれるのだろうか?電話で、事務方、看護師、当直研修医を順次説得しても
「今、入院させても土日にやることはないですよね。それにベッド、空いていませんよ。」と断られるのが落ちである。

腫瘍が頭頂に近いので脳ヘルニアの危険はなさそうである。産業医の先生が書いてくれた病歴には
『東日本津波大震災後の外傷後ストレス症候群。過呼吸、失神発作(二回、30分、自宅と会社)、パニック障害』とある。
患者さんにも何と説明したら良いだろうか? 困り果てていると技師が
「依頼医師の自宅の電話番号が書いてありますよ!」
という。なんと良心的な先生であろうか。

さっそく電話をして、脳MRIの所見を説明した。依頼医師も困っていたが、
「ちょっと待ってくれ。JK病院救急部と連絡をとってから、折り返し電話する。」と答えてくれた。
すぐに電話があり、「『JK病院救急部』の受け入れの了解をとったから紹介状を書いて送ってくれ。」とのことであった。
『パニック障害』とあるので、おそるおそる患者さんに話しかけてみた。すると、家族、友人ともに他県にいるという。そもそも他県からの受診であった。最初は不安がっていた患者さんだったが、気丈にも
「私、頑張ります。」と言ってくれた。私は紹介状とMRIレポートを急いで書いて、患者さんをタクシーに乗せ、
「患者さんをJK病院救急室にお送りして!」
と運転手に頼んだ。
さて、自宅の電話番号が書かれていたということは、依頼医師が何か予感していたのだろうか?思えば思うほど、親切なお医者さんである。さらにJK大学の同門力に感心した。日本の医療も捨てたものではない。

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