Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

コラム 米国の恩師 Helms教授

米国の恩師 Helms教授(1)

恩師Helms教授のFundamentals of skeletal radiologyは大変売れている名著である。原著は五カ国語に翻訳されており、世界的ベストセラーになっている。分かりやすい邦訳も再刊行された。
この本をちょっと覗いて見て驚いた。 Helms教授のユーモアがちりばめられている。たとえば「アキレス腱断裂の患者に対して、いつも手術を勧めていたにもかかわらず、自分のアキレス腱が断裂した時には保存療法を選んだ整形外科医を、著者は二人も知っている。」 とある。こんな気さくな先生の下なら留学したいと思った。 
縁ありて、留学がかない、「秋田は美人の産地として有名で、美人大好きです。」と切り出したところ、Helms教授は「俺もだぜぇ」ということで意気投合、私の初めの一歩は好調に思えた。 取り敢えず、「机が欲しい」と頼んでみた。私「Desuku, desuku・・・」、 Helms教授 「○?▲?□?・・・  , Oh , desk!、それは無理だ。」と言う事で艱難辛苦の留学生活が始まった。 机は貰えなかったが、Duke大学bone section の膨大なdata base と写真は自由に使って良いとの許可をくれた。 台湾出身の親切なfellowのJohnの助けもあり、拙著“肩関節のMRI ”(メジカルビュー社)の写真の大多数はDuke大学症例である。

米国の恩師 Helms教授(2)

単純X線撮像をHelms教授、fellowと私の3人で初めて読影することになった時のことである。 “術後の腰椎辷り症のX線写真”で、見逃されていた “辷り症の進行所見”を私が見つけて指摘した。 Helms教授は、最初はキョトンとしていたが、次に「Why?」とつぶやき、私が考えもしなかった、金属固定具の亀裂を指摘した。私は、「これが米国流のWhy? Because・・・」かと大いに納得した。 
Helms教授はその場で、「Good job」と褒めてくれ、読影が終わった時に、再度、褒めてくれた。翌週の脊椎外科医達との早朝カンファレンスで、日本から来ているRyujiがこれを見つけたと大勢の前で私を紹介してくれた。褒めることがHelms流である。 それでもカンファレンスの時には、背が高くて、ハンサムな整形外科医達が私の前に立ちはだかり、シャーカステンが見えなくなってしまう悲しい事態は続いた。それが失礼であることを実力で判らせるのには半年程かかった。 

米国の恩師 Helms教授(3)

Helms教授は記憶術が大好きで、「骨硬化症をきたすものとして鑑別診断にあげる疾患は以下のものである。[Renal dystrophy, sickle cell disease, myelofibrosis, osteopetrosis, pyknodysostosis, metastatic carcinoma, mastocytosis, Paget’s disease, athletes, fluorosis] 著者がこれを覚えるのに使っている記憶法は“Regular sex makes occasional perversions much more pleasurable and fantastic.”」とある。 Helms 教授の想定外のキャラクター面目躍如である。 しかしである。 人種、医療システムの違いもあり、我々で現実的に覚えておく必要がある疾患はmetastatic とathletesの二つだけであろう。他は日本人には極めて稀か、臨床情報があれば迷うことが無いからである。 ここに私が、初心者向けにこの本を書く意義もある。 
今回執筆にあたっては、Helms教授はFundamentals of skeletal radiologyにある素晴らしい鑑別診断リストを改変してこの本に使用する事を快く許可してくれ, 励ましまで頂いた。私は師に恵まれた。

≪ベクトル・コアの手にとるようにわかる骨関節単純X線写真より転載≫

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