Ryuji's room / 放射線科専門医 佐志隆士

アメリカ留学記 ~艱難辛苦の米国留学~

-悲しかったり、楽しかったり、いじけたり、頑張ったり-

15 黒人少年と新聞

Duke Medical Center に通い始めて最初の一ヶ月は、長年の夢の実現のようでもあり、長い悪夢の始まりのようでもありました。そんな7月の末の出来事でした。以下整形外科の井樋先生とのEメールのやりとりです。

私からのメール
【・・・お金といえば、先日、黒人少年が大学に行く費用をお願いしますとアパートにやってきました。新聞の勧誘のようでもありました。状況が良くわかりませんでしたが、自分が造影剤の治験(#)をしていた時のストレスを思い出して、20ドル渡しました。毎週日曜日に新聞が届くはずですが・・・? 元気になったり落ち込んだりの繰り返しです。落ち込むのは決まってlazyに過ごした後です。・・・】

井樋先生からの返事
【・・・Dukeでの生活、楽しそうですね。知らない人に$20も渡すのは危険だと思います。アメリカでは$20は大金です。その人が仲間を連れて戻ってこないといいですが。・・・】

米国南部の黒人少年の英語が、私に判る訳がありませんが、メールの内容は原文のままであります。米国の生活に詳しい井樋先生からのメールでしたので、そうかもしれないと思い恐ろしくなりました。
しかし暫くすると、毎朝、新聞が届くようになりました。しかしこれまた沢山お金を請求されたらどうしようかと思っていたら、今は特別期間中だからWeekdayは無料サービスとのことでした。私の心配は杞憂に終わりましたが、井樋先生のアドバイスが正解で、“私は運が良かっただけ”だと思います。新聞が毎日届く事により、留学生活がone‐rank 上がりました。聞き流していたテレビのnewsの内容を新聞で確認出来るようになりましたし、コンサートや映画とかの様々な情報が入ってくるようになりました。
何と言っても、役にたったのはTVの番組欄でした。土曜日の朝と夜の二回、大好きなプロレス中継をやっていることを発見したのであります。英語で、しかも電話で申し込むのが面倒くさくて、ケーブルテレビは契約していなかったので、プロレスをテレビ観戦することは諦めていただけに、とても嬉しかったです。たとえ視聴率が取れても、企業イメージが悪くなるからとスポンサーが付かないために、日本ではプロレスは夜中に放送されていますが、何と米国では、スポンサーが“陸軍”やら“沿岸警備隊”だったりするのです。“所変われば品変わる”の吃驚です。プロレスが観れて嬉しいと親しい米国人に言うと「あれはfake(八百長)だぜ」と必ず言いました。そこで「確かに、日本のプロレスもfakeだけど、アメリカのプロレスは real fakeだね」と言うと、また必ずのように“嫌ーナァ顔”をしていました。日本人に米国プロレスを軽蔑されることは、とても不愉快なことなのです。“所変われど心の機微は一緒”だなぁと実感した次第であります。

(#)治験とは認可されていない薬剤を患者さんに使用して効果や副作用を調べる仕事です。留学前にMRI造影剤の治験を引き受けさせられました。新聞で騒がれた直後で、患者さんの同意を得ることが最も難しい時期でもありました。つい先日、その造影剤は“日の目を見ないこと”が決定されました。

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